三国志モバイル人物伝

字は元達。琅邪国の人《後漢書陶謙伝》。

趙[ｲｸ]が十三歳のころ、母が三ヶ月ものあいだ病床に伏せっていたことがあった。趙[ｲｸ]は悲しみのあまり痩せおとろえ、まばたきもせず、粟粒を握って（生死を）占い、血の涙を流して祈祷をした。郷里の人々はその孝行ぶりを称えた《陶謙伝》。

処士である東莞の★毋君に『公羊伝』を学び、さまざまな学問を手広くつかんだ。何年ものあいだ大志を秘めて田畑を顧みることなく、親友でさえ滅多に顔を合わせることができなかった。ときどき父母の部屋に入って朝晩の挨拶をしたが、すぐに帰っていった。高潔にして廉直、礼儀を弁えた態度であり、清明にして謙虚、その大志に干渉できる者はない。善行を表彰して教化を興し、悪行を糾弾して風俗を正した《陶謙伝》。

趙[ｲｸ]は彭城の張昭、東海の王朗とともに名を知られ、互いに友誼を結んだ《張昭伝》。身を清めて悪を憎み、人となりは耳に邪悪を聞かず、目に虚妄を見ないという様子であった《後漢書陶謙伝》。州郡からお召しがあっても、つねづね病気だと言って応じなかった。琅邪相の檀謨・陳遵らが召しだしても応じず、なかには激怒する者もあったが、決して意志を枉げることはなかった《陶謙伝》。

太常の[禾中]払が推挙して方正となった《後漢書陶謙伝》。そのころ、三署の郎から県長が選任されることになっていて、趙[ｲｸ]が[ｷｮ]、劉[ﾖｳ]が下邑、王朗が★丘、臧洪が即丘の県長となった《臧洪伝》。県長となってからは五教を宣言し、統治ぶりは国の模範となった《陶謙伝》。

『三国志』陶謙伝の注に引く『謝承書』では孝廉に推挙されたとあるが、『後漢書』は推挙者を明らかにしており、科目を方正とするこちらを採用すべきかと思われる。原文に「太僕[禾中]払」とあるのは「太常[禾中]払」の誤りという《後漢書集解》。[禾中]払が太常となったのは初平二年（一九一）のことであり、また方正を推挙する権限も持たないので、ここでは後年の官職を言っているのである。

黄巾党が反乱を起こして（徐州の）五つの郡で跳梁跋扈すると、郡県は兵士を動員したが、（[ｷｮ]の趙[ｲｸ]が）その先鞭を付けたのである。徐州刺史巴祇が勲功第一として上表し、栄転と恩賞を授かる運びとなったが、趙[ｲｸ]はそれをいたく恥ずかしく思い、官職を捨てて家に帰っていった《陶謙伝》。

徐州牧陶謙がはじめ別駕従事に召しだしたとき、趙[ｲｸ]は病気を口実に辞退した。陶謙は揚州従事である会稽の呉範に命じ、改めて意思を伝えさせたが、趙[ｲｸ]が意志を守って心変わりしないので、刑罰でもって脅そうとした。趙[ｲｸ]はようやく起ちあがり、茂才に推挙された《陶謙伝》。しかしながら、趙[ｲｸ]は忠実正直であったため、陶謙に疎まれることになった《陶謙伝》。

陶謙は張昭を茂才に推挙したが、張昭が応じなかったため、陶謙は自分が軽んじられていると思い、張昭を拘禁した。張昭が助かったのは、趙[ｲｸ]が命を投げだして救出に奔走したからである《張昭伝》。

そのころ漢帝は長安にあって関東では義兵が立ちあがっていた。趙[ｲｸ]は治中従事の王朗とともに陶謙を説得した。「いま天子は西京におわしますので、使者を遣して王命を奉るべきかと存じます。」陶謙はそこで趙[ｲｸ]を使者として長安へ手紙を伝えさせた。天子はその気持ちを評価し、陶謙を安東将軍、趙[ｲｸ]を広陵太守、王朗を会稽太守とした《王朗伝》。

趙[ｲｸ]が広陵太守に出向したのは、陶謙の使者を務めたことで天子に評価されたからであり、『後漢書』陶謙伝が「忠実正直であるのを陶謙に疎まれたため、広陵太守への出向を命じられた」とするのは誤り。

曹操が陶謙を攻撃したとき、徐州は騒動となり、下[丕β]相である★融は男女一万人・馬三千匹を連れて広陵に逃れてきた。趙[ｲｸ]は賓客の礼でもって待遇したが、★融は広陵の資産に目をつけて、酒宴が酣になったとき趙[ｲｸ]を殺害、兵士どもを放って略奪を働かせた《後漢書陶謙伝》。

『三国志』陶謙伝では「広陵の軍隊に目をつけて」とするが、後文に続けて「略奪を働かせた」とあるのと符合しないため採用しない。また『謝承書』では「賊徒の★融が臨淮から駆逐され、郡境に侵入してきたので、趙[ｲｸ]は軍隊を率いて防戦したが、敗北して殺された」としている。趙[ｲｸ]が殺されたのは、李[ｲ寉]秉政から孫策渡江までのあいだで、初平四年（一九三）ごろかと思われる。

趙[ｲｸ]の孝廉であった張紘は、激しく怒り悲しんだが、仇討ちをする実力がなかった。後年、会稽東部都尉になったとき、主簿を琅邪へ遣して祭壇を設け、親戚中から跡継ぎを探しださせた。また琅邪相の臧宣（臧霸か？）に依頼の手紙を送ると、臧宣は趙氏の五歳の子供に趙[ｲｸ]の祭祀を行わせた《張紘伝》。

【参照】王朗 / ★毋君 / 呉範 / ★融 / 曹操 / 臧宣（臧霸） / 臧洪 / 檀謨 / [禾中]払 / 張紘 / 張昭 / 陳遵 / 陶謙 / 巴祇 / 劉協（漢帝・天子） / 劉[ﾖｳ] / 会稽郡 / 会稽東部 / 下[丕β]国 / 下邑県 / 関東 / [ｷｮ]県 / 広陵郡 / ★丘県 / 徐州 / 即丘侯国（即丘県） / 長安県（西京） / 東海国 / 東莞県 / 彭城国 / 揚州 / 琅邪国 / 安東将軍 / 県長 / 孝廉 / 三署郎 / 刺史 / 従事 / 主簿 / 相 / 処士 / 太守 / 太常 / 治中従事 / 東部都尉 / 別駕従事 / 方正 / 牧 / 茂才 / 公羊伝 / 黄巾党 / 五教