光武・伯升兄弟の実家では、おおぜいの食客をかかえていた。
南陽を飢饉がおそい、人々が飢えに苦しむようになると、それらの食客たちが盗みを働いたので、光武兄弟は役人に追われる身になってしまった。
光武は家族をつれて宛(えん)へと旅だった。
李(り)氏は宛の大豪族である。
当主の李守(りしゅ)は新王朝の役人をつとめていた。
この李守、予言術の心得があり、いつも息子の李通(りとう)に「劉氏が復興し、李氏が補佐する」と語っていた。
李通のいとこ李軼(りいつ)は争いごとが好きな人柄で、あるとき李通にこう持ちかけた。
「いま各地で混乱が起こっている。新王朝はもう滅亡するぞ。南陽の劉氏のなかでは伯升兄弟が一番人望があつい。一緒に挙兵計画を練ろうではないか。」
李通は笑った。
「わたしも同感だよ。」

光武は宛にやってきたが、ここでも飢えに苦しむ人は多かった。
そこで故郷から持ってきた食糧を売りに出すことにした。
李通は、光武が宛まで来ていると聞き、李軼を使者にして、我が家へ招こうとした。
ところが光武は、李軼の姿をみて屋敷に閉じこもった。
伯升がむかし、李通の弟を殺してしまったことがあり、仕返しに来たのだと思ったのである。
李軼がなんども呼びかけたが、光武は答えない。
そうこうするうち、光武は根負けして、しぶしぶ李軼を家に入れた。
李軼は光武に会うと、李通の気持ちをこんこんと説明する。
光武はようやく重い腰をあげ、李通の家に行くことを約束した。

ああは約束したものの、光武はまだ不安を押さえきれない。
そこで市場でひとふりの刀を買って腰に差し、それから李通の屋敷へ向かうことにした。
李通は光武がやってきたので大喜びして彼と握手した。
ふと、腰の刀に気がついて、左手で取りあげながら、言った。
「おや、なんとも勇ましい。」
光武の臆病さをからかったのである。
光武の言いわけ。
「急いでるときほど備えが肝心なのさ。」
光武は李通・李軼と語りあい、結局、おおいに意気投合し、手を取りあって楽しみをつくした。
李通は、「劉氏が復興し、李氏が補佐する」という父の予言を光武に伝えた。
光武ははじめ予言を信じなかったが、兄・伯升が食客を集めていて、やがて挙兵するだろうこと、王莽には滅亡の兆しがみえること、などなどを思い、ようやく挙兵計画に賛成した。
光武たちは計画を練り、市場で弩(いしゆみ)を買い、22年10月、ついに挙兵した。
ときに光武、28歳。